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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)13691号 判決

東京都〈以下省略〉

昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件原告

昭和六一年(ワ)第一三四五〇号事件原告}

右訴訟代理人弁護士

茨木茂

北海道札幌市〈以下省略〉

昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告

エヌ・イー・シーインターナショナル株式会社

右代表者代表取締役

東京都葛飾区〈以下省略〉

昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告

Y1

右二名訴訟代理人弁護士

深沢信夫

熊本県熊本市〈以下省略〉

昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告

Y2

東京都練馬区〈以下省略〉

昭和六一年(ワ)第一三四五〇号事件被告

Y3

右訴訟代理人弁護士

中村築守

主文

一  昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告エヌ・イー・シーインターナショナル株式会社、同Y1は、各自、同事件原告に対し、金六五四万二五五一円及びこれに対する昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告Y2は、同事件原告に対し、金一一九万九四四〇円及びこれに対する昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員の支払をせよ。

三  昭和六一年(ワ)第一三四五〇号事件被告は、同事件原告に対し、金五三四万三一一一円及びこれに対する昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員の支払をせよ。

四  昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件、昭和六一年(ワ)第一三四五〇号事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、各事件を通じ、昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件、昭和六一年(ワ)第一三四五〇号事件原告に生じた費用の一〇分の一を同原告の負担とし、同原告に生じたその余の費用を昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告ら及び昭和六一年(ワ)第一三四五〇号事件被告の連帯負担とし、各被告に生じた費用を各被告の負担とする。

六  この判決の第一項ないし第三項及び第五項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件

1  請求の趣旨

(1) 被告らは、各自、原告に対し、金六六〇万円及びこれに対する昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員の支払をせよ。

(2) 訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

(3) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1) 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  昭和六一年(ワ)第一三四五〇号事件

1  請求の趣旨

(1) 被告は、原告に対し、金六六〇万円及びこれに対する昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員の支払をせよ。

(2) 訴訟費用は、被告の負担とする。

(3) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1) 原告の請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1(1)  昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告エヌ・イー・シーインターナショナル株式会社(以下「被告会社」という。)は、海外商品取引所における商品取引の受託等を目的とする会社である。

(2)  原告は、昭和二八年○月○日出生の専業主婦であり、昭和五七年八月当時、商品取引について全く知識を有していなかった。

2  原告は、昭和五七年八月、被告会社との間で香港商品取引所における大豆の先物取引の委託契約を締結し、以下のとおり、委託保証金として、合計金六三〇万円を被告会社に交付した。

(1) 昭和五七年八月二四日 金二〇万円

(2) 同月二五日 金一〇〇万円

(3) 同月二七日頃 金二〇万円

(4) 同年九月一〇日頃 金二〇万円

(5) 同月一三日頃 金六〇万円

(6) 同年一一月一九日 金一〇〇万円

(7) 同年一二月二日頃 金八〇万円

(8) 昭和五八年一月一一日頃 金五〇万円

(9) 同月一四日 金五〇万円

(10) 同年二月一五日頃 金一〇〇万円

(11) 同月一七日 金三〇万円

3  原告は、被告会社従業員訴外B(以下「訴外B」という。)から、「これから大豆の値が上がり絶対儲かるから香港商品取引所の大豆先物取引をやらないか。保証金がなくなることは絶対にない。」等虚偽の事実を申し向けられた結果、その旨誤信し、前項(1)の金員を、「利益が少しではもったいない。絶対儲かるからもっと買わないか。」等虚偽の事実を申し向けられた結果、その旨誤信し、前項(2)の金員を、「安いから今のうちにもっと買っておけ、絶対儲かるから」等虚偽の事実を申し向けられた結果、その旨誤信し、前項(3)(4)の各金員を、「安値の時に会社で買ったものを譲ってあげるから買って置きなさい。値上がりすることは確実だ。」等虚偽の事実を申し向けられた結果、その旨誤信し、前項(5)の金員を、「今しかチャンスはない。もっと買増しをしなさい。」等虚偽の事実を申し向けられた結果、その旨誤信し、前項(6)の金員を、それぞれ交付した。

4  原告は、被告会社従業員訴外C(以下「訴外C」という。)から、「一二月はボーナスで投資家が金を出すから相場が上がる。一二月中にすべて終りにして、利益と一緒に保証金を全額戻すから。」等虚偽の事実を申し向けられた結果、その旨誤信し、第2項(7)の金員を交付した。

5  原告は、訴外B及び訴外Cから、「予想が外れて暴落してしまったので、追証を入れてくれ。追証をいれなければ、保証金は全部なくなるかも知れない。」等虚偽の事実を申し向けられ、その旨誤信した結果、第2項(8)(9)の各金員を交付した。

6  昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、昭和五八年二月から同年九月まで被告会社の東京支店長代理であったが、原告に対し、「前の担当者は随分損をさせたが、自分はベテランで大丈夫だからすべて任せてくれ。三、四月にかけて相場は絶対に暴騰する。ここで取り戻さなければ取り戻すチャンスはない。サラ金から借りてでも保証金を作れ。」等虚偽の事実を申し向け、その旨誤信させて、第2項(10)(11)の各金員を交付させた。

7  被告会社は、原告の委託に基づき香港商品取引所において誠実に先物取引を行う意思を有していないにもかかわらず、その意思があるかのように装い、原告をして海外先物取引の委託契約を締結させた上、第3項ないし第6項記載の方法で、原告から保証金名下に本件各金員を詐取したものである(このことは、被告会社が原告の注文による売買の取次ぎをすると同時にそれを仕切っていることからも明らかである。)。

8(1)  昭和五八年(ワ)第一三六九一号事件被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、被告会社の全株式を買い受け、被告会社をして海外先物取引の受託業務を行うようにさせた者であり、昭和五八年一月三〇日から同年一一月九日までは、被告会社の代表取締役であった。

(2)  昭和六一年(ワ)第一三六九一号事件被告(以下「被告Y3」という。)は、昭和五六年一二月一四日に被告会社の代表取締役に就任し、昭和五八年一月三〇日まで、被告会社の代表取締役であった。

(3)  被告Y1は、被告会社の全株を有する株主及び被告会社の代表取締役として、被告Y3は、被告会社の代表取締役として、前項記載の、原告に対する不法行為に該当する業務を計画し、執行した。したがって、同被告らには、民法第七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(4)  仮にそうでないとしても、被告Y1、被告Y3は、従業員が顧客から金員を詐取するなどして損害を与えないように常に監視・監督・指揮・命令をすべき注意義務があるのに、これを尽くさなかったものであるから、職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったというべきであり、同被告らには、商法第二六六条の三に基づく賠償責任があるというべきである。

9  原告と被告会社との間の本件取引は、外務員が甘言、詐術を用いて顧客から保証金を取れるだけ取った上、最後に莫大な損失が発生したとの外観を作出して、手数料、損金等の名目で保証金の返還を免れ、結果的にその全部を取り込むことを目的として、被告会社が組織的に行った一個の不法行為であり、これに関与した被告Y1、被告Y3、被告Y2は、原告が本件取引により被った全損害を被告会社と連帯して賠償すべき義務があるというべきである。

10(1)  原告は、被告らの不法行為(又は、被告Y1、被告Y3については、代表取締役としての任務懈怠)により、次のとおり損害を被った。

① 委託保証金として交付した金六三〇万円

② 原告訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起・遂行せざるを得なかったことによる弁護士報酬相当損害金一〇〇万円

(2)  原告は、被告会社から、次のとおり金員の返還を受けた。

① 昭和五七年九月一八日、訴外Bから「会社が安値で買った時の差額」として金一四万二六二六円

② 被告Y2から保証金の返還として、昭和五八年四月九日に金一〇万九六〇〇円、同月一八日に金一〇万円

11  よって、原告は、被告らに対し、それぞれ、第10項(1)記載の損害金のうち金六六〇万円及びこれに対する不法行為(又は、被告Y1、被告Y3については、代表取締役としての任務懈怠)による損害発生後である昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払をすることを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  被告会社、被告Y1

(1)① 第1項(1)の事実は、認める。

② 同項(2)の事実は、知らない。

(2) 第2項の事実は、認める。

(3) 第3項ないし第7項の事実は、否認する。

(4)① 第8項(1)の事実は、そのうち被告Y1が昭和五八年一月三〇日から同年一一月九日まで被告会社の代表取締役であったことは認めるが、その余の事実は否認する。

② 同項(3)(4)の事実は、否認する。

(5) 第9項の事実は、否認する。

(6)① 第10項(1)の事実は、否認する。

② 同項(2)の事実は、認める。

(7) 第11項は、争う。

2  被告Y2

(1) 第1項(2)の事実は、否認する。原告は、商品先物取引について熟知していた。

(2) 第6項、第7項及び第9項の事実は、否認する。

(3) 第10項(2)②の事実は、認める。

(4) 第11項は、争う。

3  被告Y3

(1)① 第1項(1)の事実は、認める。

② 同項(2)の事実は、知らない。

(2) 第2項の事実は、認める。

(3) 第3項ないし第7項の事実は、否認する。

(4)① 第8項(2)の事実は、そのうち、被告Y3が昭和五六年一二月一四日に被告会社の代表取締役に就任した事実は認めるが、昭和五八年一月三〇日まで代表取締役であったことは否認する。被告Y3は、昭和五七年七月七日頃、被告会社の代表取締役を辞任した。

② 同項(3)(4)の事実は、否認する。

(5) 第9項の事実は、否認する。

(6) 第10項(1)の事実は、否認する。

(7) 第11項は争う。

三  抗弁(被告会社及び被告Y1)

仮に、被告会社の活動及び被告Y1の行為が原告に対する不法行為に当たるとしても、原告は、被告会社から交付したパンフレット、契約書等により、海外先物取引の内容を知って、又は知り得べき状況の下で本件取引を行ったものであるから、相応の過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠関係

本件調書中の書証目録、証人等目録を引用する。

理由

一1  請求の原因第1項(1)の事実は、原告と被告会社、被告Y1、被告Y3との間では争いがなく、原告と被告Y2との間では、同被告において明らかに争わないものと認められるので、これを自白したものとみなす。

2  請求の原因第1項(2)の事実は、原告本人尋問の結果によりこれを認めることができる。

二  請求の原因第2項の事実は、原告と被告会社、被告Y1、被告Y3との間では争いがなく、原告と被告Y2との間では、同被告において明らかに争わないものと認められるので、これを自白したものとみなす。

三  請求の原因第3項ないし第6項の事実は、原告本人尋問の軽果により成立の認められる甲第九号証、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、これを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

四1  原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第五号証、原告と被告会社、被告Y1、被告Y3との間では争いはなく、原告と被告Y2との間では弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一四ないし第一七号証、被告Y1の尋問の結果により成立の認められる乙第一二号証、第一三号証の一・二、第一四・第一五号証、第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二五号証の各一・二、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二七ないし第三〇号証、原告・被告Y1・被告Y3の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1)  被告会社は、海外商品先物取引の受託等の業務を行うため、昭和五六年に被告Y1が全資金を出して株式を取得し、その実質的な経営権を取得した会社であり、主として原告のような商品取引の経験のない主婦等を顧客として業務を行ってきた。

(2)  被告会社は、香港商品取引所における会員としての地位を有しておらず、顧客からの売買注文を受けると、当初は、会員であるウェリンク・ディベロップメント株式会社に、昭和五七年八月一〇日以降は、同じく会員であるボーデンシー株式会社(以下、これらの会社を「会員会社」という。)に対して売買を再委託するという方法で業務を行っていた(会員会社の活動の実態は、明らかではない。)。

(3)  被告会社は、顧客の注文があった場合には、被告Y1が代表取締役であり、被告会社と同様の目的を有する訴外ウェリンク貿易株式会社を介して右再委託をするという方法を取っていた時期もあった。

(4)  被告会社は、再委託を行うに際しては、必ず、同時に、自ら顧客の注文と反対内容の注文を行い、会員会社は、これを被告会社(又は被告会社が介在させた訴外ウェリンク貿易株式会社)の新規注文とこの仕切りとして処理していた。(被告会社作成に係る乙第一五号証〔延べ勘定取引日記帳〕の「元帳丁数」欄には、顧客から注文のあった月及び被告会社におけるその月の発注番号からなるものと認められる番号が付されているので、そこに表示された番号は元帳の丁数の番号ではなく、元帳における発注番号と認められるところ、各番号は、いずれも奇数番号であるから、被告会社の発注番号としてはその他に偶数番号のものがあったものと推認でき、この点から、遅くとも昭和五七年七月ころから、被告会社が恒常的に顧客の注文に対応する反対注文を行っていたものと推認できる。昭和五八年六月以降、被告会社がそのような処理をしていたことは、乙第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二五号証の各一・二により明らかである。)。

(5)  被告会社は、原告の注文に係る取引も右と同様の方法で処理し、三において認定したような方法で原告の解約申入れを言葉巧みにかわして保証金を追加させるとともに、無断で(追認を得たものもある。)取引数を拡大し、昭和五八年九月二三日、損金・手数料等に充当した結果原告の預託した全保証金が消滅した旨の処理をした。

2  三及び右1において認定した事実を総合すると、被告会社は、当初から損金、手数料名下に委託保証金を取り込むことを目的としているにもかかわらず、これを秘し、誠実に海外先物取引を受託するかのように装って原告を欺罔し、海外先物取引の委託保証金名下に、組織的に、金員を騙取したものと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、被告会社は、原告に対し、民法第七〇九条による不法行為責任を負うことになる。

五1  次に、被告Y1が昭和五八年一月三〇日から同年一一月九日まで被告会社の代表取締役であったことは原告と被告Y1との間で争いはなく、被告Y1・被告Y3の各本人尋問の結果によると、被告Y1は被告会社の代表取締役でなかった期間も、実質的に被告会社を支配しその経営を行っていたことが認められ、これらの事実によると、原告が被告会社に取引を委託した昭和五七年八月から昭和五八年九月までの間の被告会社の経営(前示の組織的な詐取行為)は、被告Y1の意思に基づいて行われていたものと推認すべきであり、この認定に反する被告Y1の供述は、措信することができない。したがって、被告Y1は、自らの不法行為を原因として、前示の詐取行為により原告に生じた全損害を賠償する責任があることになる。

2  また、被告Y3が昭和五六年一二月一四日に被告会社の代表取締役となったことは、原告と被告Y3との間で争いはないので、被告Y3は被告会社の代表取締役として、忠実にその職務を行う義務があったというべきところ、被告Y3本人尋問の結果によると、被告Y3は、被告会社の活動の実態を把握して従業員を適切に指導・監督するという代表取締役に要求される必要最小限の措置をなんら採らなかったことが認められるので、仮に被告Y3本人の供述するように、被告Y3が被告会社の代表取締役として前記の組織的不法行為に積極的に関与しなかったとしても、その職務を行うにつき重大な過失があったというべきであるから、被告Y3において代表取締役としての権利義務を負う間に行われた被告会社の不法行為により原告に生じた損害については、商法第二六六条の三第一項により損害賠償責任を負担することになる。そして、甲第一五号証によると、被告Y3は、昭和五八年一月三〇日に被告会社の代表取締役を辞任し、その後任として被告Y1が就任したことが認められるので、被告Y3は、同日までに行われた被告会社の不法行為について責任を負うことになる(被告Y3は、昭和五七年七月に被告会社の代表取締役を辞任した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。また、仮に右事実が認められるとしても、甲第一五号証、被告Y3・被告Y1の各本人尋問の結果によると、当時、被告会社の代表取締役は被告Y3一人であったことが認められるので、被告Y3としては、商法第二五八条第一項により、昭和五八年一月三〇日に被告Y1が被告会社の代表取締役に就任するまでの間は、被告会社の代表取締役としての権利義務を有していたことになるから、右に認定した賠償責任を免れる余地はない。)。

3  三、四において認定した事実によると、被告Y2は、被告会社の経営方針を知悉した上で、原告から請求原因第2項(10)(11)の各金員を騙取したものと推認することができるので、原告に対し、自己が騙取した金員の範囲で不法行為責任を負うべきことになる。

4  なお、原告は、本件各取引が一個の不法行為であり、被告らは原告の被った全損害につき連帯して賠償責任を負担すべきであると主張するが、二、三、四において認定した事実によると、被告会社が原告から保証金名下に各金員を詐取した時点で原告にその金員相当の損害が生じたというべきであるから(被告会社が損失、手数料等に充当したとの理由で保証金の返還を免れようとした時点で原告に損害が生じたものではない。)、被告Y3は、被告会社の代表取締役であった昭和五八年一月三〇日までの不法行為による損害につき責任を負い、被告Y2については、自己の関与した昭和五八年二月以降の損害につき責任を負うことになる。

六  そこで、すすんで原告の被った損害につき判断するに、三、四において認定した事実によると、原告が被告会社に保証金として交付した金六三〇万円は、原告が被告会社の不法行為により直接被った損害ということができる。しかし、弁論の全趣旨によると、請求の原因第10項(2)の事実を認めることができるので、右損害のうち、金五九四万七七七四円が残存していることになる。また、原告が弁護士である原告訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起・遂行したことは当裁判所に明らかであり、弁論の全趣旨によると、原告はその報酬として金一〇〇万円を超える金員を支払う旨約していることが認められるところ、本件事案の性質、審理の経過その他の諸事情を総合すると、被告会社の不法行為と相当因果関契のある損害としての弁護士報酬は、右損害の一割に相当する金五九万四七七七円と認めるのが相当である。

七  次に、被告会社及び被告Y1の主張する過失相殺の抗弁につき判断するに、本件不法行為は、被告会社が組織的に行った故意行為であり、本件全証拠によるも、原告に過失があったとすべき事由を認めることはできない。

八  以上において判示したところによると、各被告は、原告に対して、連帯して、次に掲げる損害を賠償すべき義務があることになる。

①  被告会社 六において判示した不法行為による損害金合計金六五四万二五五一円及びこれに対する損害発生後である昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金

②  被告Y1 被告会社と同じ

③  被告Y2 不法行為による損害金一一九万九四四〇円(内訳・自ら二回にわたり詐取した合計金一三〇万円から昭和五八年四月九日に支払った金一〇万九六〇〇円及び同月一八日に支払った金一〇万円を控除した残金一〇九万〇四〇〇円及びその一割に相当する弁護士費用金一〇万九〇四〇円の合計金一一九万九四四〇円)及びこれに対する損害発生後である昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金

④  被告Y3 商法第二六六条の三による損害賠償金五三四万三一一一円(内訳・代表取締役在任中、被告会社が詐取した合計金五〇〇万円から昭和五七年九月一八日に支払った金一四万二六二六円を控除した残金四八五万七三七四円及びその一割に相当する弁護士費用金四八万五七三七円の合計金五三四万三一一一円)とこれに対する損害発生後である昭和五八年九月二三日から支払済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金(原告の被った損害は、被告Y3の任務懈怠に基づく直接損害であるから、不法行為による場合と同様に損害発生の日から遅延損害金が生ずるものと解すべきである。)

九  よって、原告の請求は、八に記載する限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項ただし書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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